新宿を歩く

「おじいちゃん死んじゃったって」を見るためにテアトル新宿にいった。岸井ゆきののことがなんとなく好きなのは、気の合う男の子と浅草でホッピーを飲んでいた時に「なんとなく岸井ゆきのを見るとあなたのことを思い出す」といわれたからかもしれない。その男の子と初めて出会ったのは鶯谷東京キネマ倶楽部で、yogee new wavesとサニーデイ・サービスのライブだった。

 

大学生のころは、新宿はわたしの街だと思っていた。通学するときは新宿で乗り換えていたし、3年近くアルバイトをしていたのも新宿だった。映画を見るのも、お酒を飲むのも新宿で、細い階段をのぼって扉を開けると黙っていてもジンライムを出してくれるお店もある。

 

思い出が多すぎて1人で歩くのがつらかった。深夜に歩いた花園神社も、百円の恋を観た後に食べた手羽先も、西口のお好み焼きも、ドライフルーツの紅茶も、逃せなかった終電も、全部全部過去の話になった。

だれにも好きだと言わなかったし、だれにも好きだと言われなかった。わたしにとって大事なことは、新宿にはない。少しさびしくて、どうしようもなくて、忘れたいのに忘れられないことばかりで溢れている。

 

社会人になって、めっきり新宿にはいかなくなった。定期圏外になってしまったし、誰もいないから。

 

ケーキでも食べて帰ろうと思っていたら、お母さんからケーキ買ってきてと連絡が入っていた。そうだね。新宿でケーキなんて食べてしまったら、たぶん泣く。誕生日でもないのに大きなケーキにろうそくをつけてもらった。