山田詠美

8時34分 満員電車よりもちょっと空いている電車に乗って30分、乗り換えてさらに15分 一駅一駅進むごとに少しずつ覚悟を固めて会社のエントランスをくぐる。意外にもエレベーターで乗り合わせる人々の顔色は明るくて、わたしの心の中に残っている休日への未練はパチパチと小さな破裂音を発しながら消えてしまう。

 

最近のわたしは、全然だめだ。自分でだめだと言えてしまうくらいにだめなのだ。24歳、たぶん思春期。

やりたいこととやっていることと出来ることのバランスがうまく取れないで、ただ人と話しているだけで涙が出ることもある。

誰かのせいにできれば良いけど、それもできない。ただ、1日の多くの時間を費やしていることが自分のやりたいことではないと気付いてしまった以上、そこに熱を上げることができないまま、どこか別の場所に行くにはまだ早すぎるような気がしている。そんなことない、きっと今がその時だと思う自分もいる。

 

休日になると必ず、なりたかった自分を思い浮かべて落ち込んでしまう。かつて書いていたブログを読み返すと、なりたかった女の子について書いてあった。

「わがままで、気分屋で、それでもたくさんの人に好かれていて、この子といると世界が変わるかもしれないと思わせてくれるような女の子。 

男が好きなせっけんの香りを身に纏うのではなく、自分の好きな香水を好きなだけつけて足首には金色のアンクレットを着けるような女の子。

誰かのためにではなく、自分のために生きられる女の子。」

 

好きなように、自由に生きているか?

 

こうでなくてはならない、という空気が漂う職場への精一杯の反抗のつもりで髪の毛を染めた。生まれて初めてブリーチをして、焦げ茶色のなかにいくつか金を混ぜた。自分のために、好きな自分でいられるように、強くなろうと思った。

 

そんなわたしの小さな決意はしばらくの間誰にも気づかれなかったけれど、耳の後ろにきらりと光る少しの束を見て恋人は「猫みたいにしたの?」と笑った。

 

 

吉澤嘉代子-月曜日戦争